- 日時:
- 2009年4月2日(木) 10:00〜16:00
- 場所:
- 株式会社愛工舎製作所 本社CAPビル
- 講師:
- ハインツ・ウルリヒ・エンゲルハート氏
- 主催:
- 一般社団法人 日本パンコーディネーター協会
- 協賛:
- 株式会社愛工舎製作所・日清製粉株式会社
ドイツには世界でも他に例がないと言わしめるほど小麦とライ麦を組み合わせた無数のパンのレシピが存在し、パンの種類も300を超えると言われています。
また、“確かな品質と技術”を証明する証として様々な職種にマイスター制度という制度(国家資格)が適用され、パン職人もその一つとして厳粛に定められています。
近年、日本人もマイスターの称号を取得するためにドイツへ修業に行かれる方も多く、晴れて資格を取得した職人たちが日本でドイツパンのお店を営んだり、昨年はドイツパン・菓子研究会が発足するなど、日本に居ながらにして本場ドイツの美味しいパンを食べられるほど国内のドイツパン製造の技術は発展してきました。
しかし、残念なことに日本では未だドイツパンのおいしさは浸透しきれておらず、一般的な日本人のドイツパンのイメージとしては堅い、酸っぱいといった印象と、その食べ方が知られていないということで、実際のところ消費する機会が少ないのではないでしょうか。
そこで、より多くの方に「ドイツパンのおいしさを知っていただきたい」という思いと、パンを作られる方にも更にドイツパンの魅力とマイスターのパンへの思いに触れていただく機会を作るべく、熟練マイスター ハインツ・ウルリヒ・エンゲルハート氏をお招きし、マイスターとしてのパンに対する思いや、その制度のこと、そしてドイツのパン事情や食べ方などをふんだんに盛り込みながら、実際にマイスターの資格を得るために制作するパンの一部の作り方も学ぶという欲張りなセミナーを行うことにいたしました。
講習品目は、(写真左から)ロッゲンミッシュブロート、ミッシュブロート、ブレッツェル、カイザーブロートシェン、ズースタイクの計5品で、これらを仕込みから焼成に至るまで実演していただきました。
この中で、とても面白いアイテムだったのがズースタイク。「ズース」=甘い、「タイク」=生地という意味のとおり、甘めの生地で、主にクーヘンやツオップに使われます。
ちなみにドイツでは砂糖・バター・卵の含有量で「ライヒト(軽い)/10〜20%」、「ミッテル(中間)/20〜30%」、「シヴィア(重い)/40%」と、生地の名称が変わり、今回のズースタイクはミッテルシヴィアにあたるそうです。
ズースタイクは、日本でいう菓子パンのようなものですが、日本のお餅のように、季節(イベント)ごとに違う形で提供されるドイツの定番。
今回はイースターのシンボルでもあるうさぎや、アドベントの聖ニコラウス、ドイツで新年に食べるという甘いブレッツェル(通常は塩味)、大晦日に食べるという意味深い形のものまで、バラエティーに富んだ季節のパン成形をご紹介いただきました。
また、同じズースタイクの生地を使い、カスタードクリームのように炊き上げた黒ケシのフィリングとシュトロイゼル(そぼろ状のクッキー生地)をのせて焼いたモーンクーヘンというお菓子も紹介していただきました。しっとりとしてコクがあるのに甘さも控えめな、見た目も味もドイツらしい、とても美味しい半生菓子といったかんじでした。
講師のエンゲルハート氏の通訳兼助手の杉沢多美子氏もエンゲルハート氏のもとでマイスターの資格を取得されたお一人。息の合った、流れるような作業の合間にお話しいただいた内容はどれも興味深いもので、ご紹介しきれないのがとても残念なのですが、ドイツパンの美味しさをより引き立ててくれる「クロイタークワルク」というディップのレシピを指南いただきましたのでご紹介いたします。
【クロイタークワルク】
クリームチーズ 100g
ピクルス 100g
サラダシーズニング 10g
パセリ 10g
ディル 10g
細ネギ 10g
塩 2g
胡椒 2g
食事パン(ハード系)にバター又はクロイタークワルクを塗り、その上にチーズ、ハム、ピクルス、トマト、ゆで卵、たまねぎなどをはさんで塩・胡椒して食べるのが現地流なのだとか。甘いパンは、このようにしては食べませんが、プレッツェルにも合うそうですので是非お試しください。
そして、昼食では、当協会のペアリング特別講師でもある更家友美によるドイツパンをよりおいしく食べるための「ハム&クリームチーズディップ」「枝豆のディップ」をはじめ、さわやかな酸味のあるパンとの相性の良い食材を合わせたサンドイッチの提案もあり(写真参照)、エンゲルハート氏が作ったばかりのパンと共に大好評でした。
また、セミナー終了後、お二人の人柄が表れた優しい味わいのパンでしたとお伝えしたところ、杉沢氏から「それは作り手にとってとても嬉しいこと。つい決まった時間枠の中でパンを作ろうとするけれども、日々作る環境は異なり、条件も違う。決まった温度や時間では美味しいパンが作れないということもお伝えできればと思っていたので、その思いがパンの味に表現でき、そのようなコメントをいただけたことは非常にうれしい」と笑顔で話されていました。
余談ですが、以前、有名なパン職人の方が「本当においしいパンは家でお茶でも飲みながらのんびり時間を気にせずに作ったパンだ」とおっしゃられていたことを思い出しつつ、パンの奥深さをも伺い知れた一日となりました。
今回ご参加いただいた皆様から「ドイツのマイスターのお話もうかがえてとても面白かったです」「詳しく説明していただけたので分かりやすかった」「今までで一番おいしいプレッツェルでした」といった声をお寄せいただきました。
最後に、今回は会場設備のご提供など全面的にご協力いただきました株式会社愛工舎製作所様、そして、エンゲルハート氏も推薦する粗挽きライ麦粉「アーレグローブ」と細挽きライ麦粉「アーレファイン」をご提供いただきました日清製粉株式会社様に感謝申し上げます。 ありがとうございました。
ハインツ・ウルリヒ・エンゲルハート
Heinz Ulrich Engelhardt
14歳で製菓職人の見習いをはじめ、各店舗で実績を積む。 その間、IKA銀賞受賞。 その後独立し、定年までの約30年間勤務。 現在は日本にて国際パティシエ・ブランジェ専門学校で 製菓製パンマイスターとして後継の指導にあたっている。
【経 歴】
1944年2月27日 | : | チューリンゲン州ゲラ市 Thueringen,Gera生まれ |
1949年1月12日 | : | ヘッセン州フランクフルトに引越す |
1958年4月1日 | : | ケーキ職人見習いとなる(Lehrling) - Konditorei Karl Kowald コバルト |
1961年4月1日 | : | ケーキ職人資格取得(Geselle)。
各店でさらに技術を磨く。 - Konditorei Karl Kowald コバルト - Baeckerei-Konditorei,Cafe Karl Kneisel クナイゼル - Baeckerei-Konditorei Jung ユング - Baeckerei-Konditorei Kraemer クレマー - Baeckerei-Konditorei Geishecker ゲイシェッカー |
1962年 | : | パン職人資格取得(Geselle)。 |
1967年1月 | : | マイスター資格取得(Konditoreimeister)。 マイスターとして勤務。 -Baeckerei-Konditorei,Caf・Karl Kneisel |
1968年 | : | 個人店舗「Baeckerei-Konditorei, Engelhardt」を開業 |
【表 彰】
1964年11月6日 | : | 第15回国際料理技術展示会、ホテル・飲食店国内展示会 菓子部門 銀メダル、特別表彰 International.15 Kochkunst-Ausstellung(IKA) Bundesschau fuer Hotel-Gaststaettengewerbe Konditorei Fachschau - Silbermedallie fuer hervorragende Leistung |
1974年 | : | ドイツ国パン組合 高品質・高技術認定証 Deutschen Baeckerhandwerk - Fuer gute Leistungen fuer Qualitaetpruefung |
1998年11月1日 | : | ライン・マイン川地区手工業会議所 永続25年表彰 Handwerkskammer, Reihn-Main - 25 Jahre Selbstaendig |
2004年5月 | : | フランクフルト地区手工業組合
永年(60歳)表彰 Handwerksinnung, Frankfurt am Main - Siberne Ehrennadel |
2006年7月 | : | 2006年ドイツ全国シュトレン大賞4位入賞 Stollen Zacharias |